第34章 恩返し
(・・・あ、意識戻ったんだ。良かった)
居間でくつろいでいたところで、分身から情報が伝わってきてホッとする。
ちょうど傍にいたスイレンに声を掛けた。
「スイレン、アスマさんの監視頼んでいいかな?・・・絶対逃がしちゃダメだからね。一応、脅しは掛けたしケガで動けないと思うけど、万が一のことも考えて」
『わかった」
「・・・スイレン、頼んだよ。私も今度行くからさ」
『いいよ、任せて』
なぜアスマを里へ帰らせないか。
それには、理由がある。
(三代目の恩返しのつもりでアスマを助けたけど、もしこれが角都さんにバレたら、今度こそアスマは殺される・・・里だってアスマが死んだと思ってるし、今帰られたら逆に困る)
(一生拘束するわけじゃないし、里に帰るのはいつだっていい)
(角都さんにこれがバレたら、怒られるだろうな)
あまり乗り気ではないのに、文句の一つも言わないスイレンに「ありがとうね」とお礼を言い、見送った。
行く直前、頭をなでると少しだけ上機嫌になっていたスイレン。
頼ってばかりいることはわかっているけれど、“絶対逃がさない”ことが確実なのは、スイレンだ。
スイレンならきっと、やり遂げてくれる。
(恋人もいるのに帰れないなんて、つらいよね)
ま、私は恋をしたことがないけどさ。
「―――イタチ兄さん、あの人の意識が戻ったんだって。まだケガで動けないみたいだけど、もう少ししたら回復するんじゃないかな」
「・・・そうか。良かったな」
「うん」
ちょうど私と同じように居間にいたイタチの元に行き、それを伝えると、イタチは少しだけ笑って私の頭を撫でた。
「ハル、オレとの約束は覚えているな?」
「うん。“名前は言うな”でしょ?わかってるよ」
「オレたちのことも言っちゃダメだ。だけどな、ハル。オレは嬉しいよ」
「・・・?」
「お前がちゃんと優しい子に育ってくれてるんだって、わかったからな・・・まあ、まさかあの人とは思わなかったが・・・皮肉だな」
最後の方は小さな声で聞き取りずらかったが、私の耳には届いていた。
何も言えないでいると、イタチは私の手を取り、部屋に戻った。