第34章 恩返し
容姿だけでなく雰囲気もガラリと変わったクロに、アスマの中では、クロに対する警戒心が高まっていた。
けれども、クロはそれを見透かしているかのように笑ったのだった。
「拒否権はありませんよ、アスマさん。これはすでに決定事項なので・・・もし、従ってもらえないようなのでしたら、私もそれなりの手段をとらせていただきます」
「・・・脅すつもりか」
「やだ、人聞きが悪いですねえ・・・否めませんけど。あなたがもし里へ戻ろうとした場合は・・・」
「場合は?」
「殺します。あなた―――ではなく、あなたの恋人、夕日 紅さんを。足りないなら、いのちゃんやシカマルくん、チョウジくんも」
その言葉を聞いた瞬間、アスマはギロッとクロを睨み付けたが、クロは肩をすくめるだけだった。
「だって私、里の人間じゃないんですもん。もちろん心は痛みますけど、そうすることはできますよ。一人ずつ殺していけば、簡単そうですね・・・ま、時間は掛かるけどこれが確実かな」
「・・・お前が何を企んでいるかは知らんが、アイツらがお前に負けることはない」
「そうでしょうか」
「アイツをナメていると痛い目を見るぞ」
「その言葉はそっくりそのままお返しします。あなたこそ、私のことバカにし過ぎでしょ」
クロは少し不服そうに眉を寄せたあと、ため息をつき言った。
「あなたには監視をつけますんで、しばらくの間ここから出れるなんて思わないでくださいね。もし逃げ出すような真似をしたら・・・わかっていますね?」
「・・・」
「フフ、そう怖い顔をしないでください。私だって、できれば手は汚したくないと思っています・・・それもあなたの行動にかかっていますけどね」
どちらにせよ、今のアスマは楽に動ける状態ではなかった。
それを両者ともにわかっているからこその言動だった。
「・・・なぜ親父がお前を気にかけていたのかがわからんな」
「あなたたちには一生わからないでしょうね」
「“たち”?」
「・・・そのめでたい頭でせいぜい考えることですね」
それきり、クロは何も話さなくなった。
アスマが声を掛けても舌打ちをしても、何も反応しなかった。
(・・・めでたい頭、か)
(こういう時親父ならなんて言うんだろうな)
(・・・ああ、煙草吸いてーな)