第34章 恩返し
アスマの目が覚めたのは、暁との戦いから三日後のことだった。
「・・・ん・・・?」
ムクリと体を起こせば、体のあちこちに痛みが走った。
顔をしかめていると、落ち着きのある少女の声がした。
目線をやれば、髪の長いきれいな顔立ちをした少女がいた。
「勝手に動かないでください。傷が開きます。さ、横になって」
「・・・あ、ああ・・・ありがとう」
「水。飲みますか?」
アスマの声が掠れていたのを聞いて、少女がアスマの目の前にコップを差し出す。
コップにはストローが添えられていた。
そのまま飲めということだろうか。
アスマはチラリと少女を見て、それからストローに口をつけた。
「・・・ありがとう。君が助けてくれたのか」
「まあ・・・そうなりますね。それより、具合はどうですか?」
「体がまだ痛むな・・・はは、あれだけやられたんじゃあ仕方ないか・・・」
そこまで言ってアスマは何かに気がついたのか、バッと胸を見た。
巻いてある包帯を外すわけにはいかないので、包帯の上から心臓がある左胸をゆっくりとさわった。
「・・・それ、致命傷だったんですよ。とにかくヤバかったし、追っ手も撒くの大変でした。胸の穴は塞ぎましたけど、痕が残りました。すみません」
「・・・」
「どうしました?具合が良くないんじゃ・・・やっぱりスイレンかネネ呼ばなきゃ」
「いや・・・少し驚いただけだ」
「そうですか」
少しだけ心配そうな表情をした少女に、アスマはふと気になっていたことを聞いた。
「・・・お前、名前は?」
「え?・・・あ、そっか。そうですよね」
「?」
そう言うと少女は印を結び、次の瞬間には違う姿になっていた。
アスマの顔が驚いたものに変わった。
「お、お前」
だってアスマは知っている。
彼女のことを、当たり前のように知っていた。
「びっくりしました?あはは、口開いてますよー、やっぱり気づかれないものですねえ。あ、私、クロでーす!」
「・・・お前、なんで・・・」
「三代目様にはご贔屓にしてもらいましたし、そのご恩をご子息に返そうと思いまして」
「親父?・・・いや、そんなことより早く木ノ葉に帰らないと」
「まあ・・・言うと思いましたけど。ダメです、まだ行かせませんよ。あなたにはしばらくここにいてもらいます」