第34章 恩返し
しかし、よく考えたら自分は少しメンタルが強くなったのではないかと思う。
この危機的状況に置かれつつも、あまり慌ててはいない。
脳ミソフル回転でアスマのことをどうするか考えている。
「昨日、私たちは尾獣の封印で忙しかったですけど・・・ハルさん、あなたが帰ってくる姿を私たちは偶然見てしまったんですよ」
「そ、そうなんですか・・・」
「ハル。理由はなんだ?」
イタチの目からは私を心配しているのが読み取れた。
予想外の感情に私は少し驚いたが、次の言葉ですぐに納得した。
「・・・ここは大丈夫なのか?」
「イタチ兄さん、あの時のことならもう大丈夫だよ。それとね、理由だけど・・・絶対に誰にも言わないって、約束してくれる?」
「・・・ああ」
私は木ノ葉のことを何も覚えていないと思っているイタチの考えを今回は利用させてもらう。
(・・・こんな汚いマネ、許されることじゃないけど、でも、ごめんなさい)
「・・・実は、倒れていた人がいて。その人の具合を見に来たの・・・今もベッドで寝てるの」
「倒れていた人?・・・お前、知らない人を助けたのか」
「うん・・・」
イタチと鬼鮫が顔を見合わせてベッドがある方へ足を向けた。
そして彼らは、横たわっている人物を見る一瞬固まった。
「・・・なぜこの人が?」
「イタチさん、どうします?ハルさんの顔を見られたのなら、危険かもしれませんよ」
「・・・」
言うまでもなく険しい顔になる二人。
何かと思案している二人に、私は嘘をついた。
「・・・こ、この人、私が崖から落ちそうになってるところを助けてくれたの。でも、私を庇って落ちてしまって・・・い、イタチ兄さんに言えば迷惑がかかると思って言えなかったの。ごめんなさい」
「・・・そうか。まあ、お前らしいといえばそうなるが・・・でも、今後一切こういうことはしたらだめだ。いいな?」
「うん・・・あの、それでこの人のことはみんなには言わないでほしいの」
「そうだな。・・・大丈夫だ、もう怒ってないよ。ただ、今度からはちゃんと言え。わかったな?」
「うん」
未だ目が覚めないアスマを殺す気はないようで安心したが、鬼鮫は横に置いてある額あてをじっと見たあと、ため息をついた。
「いいんですか?」
「・・・構わん。放っておけ」