第33章 笑顔
足を止めたのは、立派な旅館の前だった。
見上げながら中に入る。
サクラと二人部屋ということで、寝るときは二人で布団を敷いて寝た。
明かりを消すとすぐに眠りについた私は、朝になり、気が付くと、人型になったスイレンの腕の中だった。
目の前には私を呆れた顔で見下ろすサクラがいて、「ああ、また寝過ごしたんだ」と察した。
そして身支度を済ませたあと、手伝ってくれたスイレンにお礼を言い、オオカミ姿に戻ってもらった。
次の日。
足を止めたのは、何もない森の中だった。
ヤマトが「今夜はここで野宿だ」と言った後、木遁で結構な大きさの家を出現させた。
内心、木遁羨ましいなとか思いつつ中に入って、今に至る。
「サクラ、聞きたいことがある。サソリについてだ」
「・・・はい」
「実際に話したのは君だけだからね。できれば細かく話してほしい」
サクラはあの時の記憶を辿るように視線をあちこちに泳がせながら、サソリの口調や容姿についてを話していた。
彼女にとって、あの時のことは快挙とも呼べることだ。
忘れるわけがない。
あの時の空気も思い出しているのか、真剣な表情だったけれど、私は特に話を聞こうとは思っていなかった。
「クロ、君も少しは真面目にしたらどうだい?」
「・・・はーい」
(・・・違う。たしかにサソリは言葉づかいも荒かったし、好戦的な性格だったけど・・・傀儡を操るのは誰よりも上手で、優しいところだってあった)
(・・・なんでサソリは私なんかに、大事なコレクションを譲ってくれたんだろう)
(もう訊けないけど)
(・・・私は覚えていれば、いいんだっけ)
(覚えていることが、サソリの為になるんだよね)
「クロ・・・大丈夫?」
「え?うん、眠くてねー・・・私、もう寝ていいですか?」
「は?いや、ちょっと」
「おやすみなさい」
「アンタ、明日は絶対に起きてよね!クロ、寝起き悪すぎよ!」
「えー、どうせならサクラちゃんに起こしてほしいなー」
「起きないくせに何言ってんの」
「あはは」
適当にかわし、部屋に戻ることにした。
なんとなく聞きたくなかった。
さっさと布団を敷くと、ぎゅっと目を閉じ、暁のみんなのことを考えながら眠りについた。