第32章 二年
『・・・ハル、悲しいの?』
「うん」
『のわりには、他の人たちはそんなことないみたいだけど』
スイレンの言う通り、きっとアジトへ戻れば、サソリがいない私の日常が始まるのだろう。
彼らも、きっと何食わぬ顔で過ごすはず。
「それは・・・もしかしたら慣れちゃったのかもね。一緒に過ごした時間は決して短くはないし、仲よくもなった。でも、それ以前に・・・みんなは、過去にいろんな体験をしたんだろうね」
『割り切れるものなの?』
「過去の上に、今の自分がいるようなものだから・・・もともと、みんなも覚悟してたのかもしれない・・・みんなは、望まれない人たちだから」
『・・・よくわからないなあ』
「・・・私はね、命は等しく平等だと思ってるよ。人に限らずね。人が一人いなくなるということは、その人が思い出に変わるということよ。もう思い出の中でしか会えないの」
『キミも?』
「そうよ。人間、生きている限り何かしらの繋がりがある。誰かが死ぬことで、きっとどこかに、その誰かの死を悲しむ人がいてくれるはずなの。それって、嬉しいことだけど、悲しいことでもあるよね」
『・・・』
「命は限りあるからこそ、大切にしようと思えるの。私だって、死にたくないし、まだまだ生きていたい。幸せを感じたい」
『僕は、キミに死んでほしくないよ』
「うん、ありがとう。せっかく自由に動ける体をもらったんだし、今でも十分幸せなんだけど・・・」
(私が、一番幸せだったと思う記憶は、家族みんなで過ごした日々)
「命の使い方はね、自分で決めるよ」
『僕はね、キミのものだから。キミにあげる』
「・・・まったく、命はそう簡単にあげていいものじゃないのよ?あーあ・・・サソリ、最期笑ってたなあ・・・」
だんだん、雨が上がってきた。
お天気雨だったのか、もしくは―――
「サソリが雨止めてくれたのかなー・・・なんて。あは・・・今頃、向こうでチヨバアと仲よくできてるかな・・・それはないか」
私も、最期は笑って死にたい。
いつまでも泣いているわけにもいかない。
でも、胸に喪失感がぽっかりと穴をあけている。
「空っぽになっちゃいそう・・・」
『何が?』
「・・・なんでもない。さ、帰ろう」