第32章 二年
居間に行くと、イタチが一人でいた。
彼は私に気が付くと、立ち上がった。
「・・・みんなは?」
「おはよう、ハル。みんなは外だ。お前も行くぞ」
「え・・・あ、うん」
手を引かれ、みんなが待っているという外へ出た。
イタチは、暁の象徴の、あの衣を纏っている。
ふと後ろを見ると、いつの間にかスイレンがいた。
『おはよう』
「・・・うん。おはよう」
少し驚いたが、そういえばスイレンはいつも私の傍にいたんだと思い直す。
私が気付かなかっただけだ。
「声掛けてくれてよかったのに・・・もしかして、気を使ってくれてるの?」
『え?いや、その・・・』
「うん、スイレンはわかりやすいね。ありがとう、そんなにひどい顔してた?」
『・・・さっきよりはマシだよ?』
「見てたのね・・・まあいいや。スイレン、別に無理して気を使わなくていいよ。慣れてないでしょ」
『う、うん』
たしかにひどい顔だったけれど、スイレンに気を使わせてしまうほどだったのか。
考えていると、イタチに傘を差しだされた。
外は、雨が降っていた。
傘を差し歩いていると、同じく傘を差し、立っている人たちがいた。
イタチと同じ衣を纏っている。
だが、みんなは変わったような様子はなく、いつもと同じだった。
スイレンが濡れてしまうと思ったが、当の本人は特に気にしている風でもなかった。
「・・・来たか」
ペインが私たちが来たことに気づくと、彼は一言「遅かったな」と言った。
それに対し、イタチが「すまない」と簡潔に答える。
何が始まるのかさっぱりわからないでいたが、ペインが前を向くと、一斉にみんなが前を向いた。
「・・・赤砂のサソリは死んだ。残念ながら、な。彼は死ぬには惜しい人物だった。これから、彼への弔いに祈りを捧げる」
何もない場所で、全員が目を閉じた。
私は倣い、同じく目を閉じた。
そして―――どれだけ目を閉じていただろうか。
一人、また一人と、中へ戻っていく。
「ハル。・・・戻らないのか?」
「うん。イタチ兄さん、先戻ってて。私もすぐ戻るから」
「そうか。わかった」
最後まで残ったのは、私とスイレンだけだった。
『・・・戻らないの?風邪引いちゃうよ』
「まだ・・・もう少ししたら戻るから」