第32章 二年
温もりを感じて、それにつられて二度目の涙が出た。
死なないで。どうか、いなくならないで。
この温もりも、感じるだけ寂しくなるのかな。
(この思いは、口にしてはいけない)
「イタチ兄さん、ありがとう・・・」
「・・・いいんだ。オレの前で我慢はするな」
「・・・うん」
(私ができることをしよう)
私が、みんなの最期を見届けよう。
もう、泣かない。 泣くのはこれが最後だ。
(それが、私がみんなにできることなら)
「ありがとう・・・イタチ兄さん」
「このくらい、なんてことないよ。お前が望むなら、いくらだってしてやる」
「・・・うん」
イタチは一旦体を離すと、私を抱き上げて、彼の部屋を出た。
そしてそのまま自室へ入ると、ベッドに私をおろした。
「今日はもう寝よう」
「・・・うん」
「大丈夫だ。お前はオレが守る」
「あ・・・ありがとう・・・」
「お前は優しいな」
「・・・」
イタチは横になると、自身と私に布団をかぶせた。
そして、私を抱きしめると目を閉じた。
イタチに頭を撫でられ、私も目を閉じた。
(これから、自分がすべきことがわからない)
(でも、今だけは)
(何もかも忘れて)
彼が残した思い出と、彼の言葉に浸りたい。
兄のぬくもりに触れながら。
次の日。
朝起きると、すでにイタチの姿はなかった。
洗面所へ足を運び、顔を洗う。
鏡で見た顔は、いつも通りだった。
だが、みるみるうちに眉が下がり、鏡に写っている私は泣きそうになっていた。
「これからどうしたらいいの・・・」
寝て起きても、答えは出ない。
自分がすべきことは見つかったけれど、その道程が見えない。
この胸に空いた大きな穴が、いつか積み重なり、私には耐えきれぬところまできた時。
私はどうするだろう。
どうなるのだろう。
知らないことがあるのが怖い。
もう一度鏡を見たけれど、彼女は尚も泣きそうな顔をしていた。