第32章 二年
スイレンは黙ってしまった私を見て、眉を下げていた。
「・・・ごめん。忘れて」
こういうことは自分で考えるべきなのかもしれない。
すると、スイレンは『いいんだよ』と言った。
「・・・何が?」
『僕のこと、頼ってよ。キミがわからないことだから、きっと難しいんだと思うけど、僕だってキミの力になりたい』
スイレンは苦笑いをしながらも、私の手をとった。
『僕はね・・・僕なら、キミに見ていてもらいたい。キミが僕の最期を見届けてほしい。キミに僕のことを覚えておいてほしい』
「・・・」
『まあ・・・僕はキミといっしょにをその時迎えたいっていうのが本心なんだけど』
スイレンはそう言った。
「・・・そんなことしか、私ができることはないのかな」
『“そんなこと”が僕には嬉しいんだよ。自分がいなくなった世界で、誰かが覚えててくれるなんて幸せだよ』
「そうなのかな」
『そうだよ。あーあ、サソリが羨ましいなあ。キミに覚えていてもらえるんだから』
いまいちピンとこなかったが、スイレンの言葉は嘘じゃないのことはわかった。
「そっか」と言ったあと、そろそろ暑くなってきたのでお風呂から上がることにした。
半乾きの髪の毛をそのままにして、廊下に出た。
オオカミ姿に戻ったスイレンが出たのを確認して扉を閉める。
ふと、前を向いた私の目は、一つの扉をとらえていた。
引き寄せられるように、自然と足がそちらへ向かっていく。
心配そうについてくるスイレンは、誰の部屋かはもうわかっているようだった。
ドアノブを捻って、中に入る。
初めて入った彼の部屋は、意外にもきれいだった。
机の上には物がちらばっているけれど、どれも戦闘に使うものだった。
必要なものしかない。 彼らしくて少し笑った。
ふいに、巻物が積まれているのが目に入った。
(これは・・・?)
たくさんのソレから、これが彼の言っていたコレクションだということを察した。
“お前に、全部・・・”
「・・・」
思い出してしまって、じわりと涙が滲む。
そこで、入り口を振り返ると、イタチがいた。
「・・・イタチ兄さ・・・」
「そうか・・・お前・・・」
イタチは近づいて、私の目の前までくると、私を抱きしめた。
「知っていたんだな・・・」