第32章 二年
なら、尚更私が泣いてはいけない。
私は、彼を殺したも同然なのだ。
(―――三代目のときと同じ)
助けることはできたかもしれない。
たとえ致命傷だったとしても、間に合ったかもしれない。
それでも。
「だめ」「死なないで」とは言えなかった。
“潮時だったってことだ”
彼は、同時に“もういい”と言ったのだ。
“オレはここで死ぬ”―――と。
彼が望んでいることなのに、どうして私が邪魔をすることができるだろう。
大切な人だからこそ、最後の望みくらい叶えてあげたい。
私が、その最期に立ち会えば、きっと、ここにいる彼らもそう言うのかもしれない。
そんな予感がする。
「―――・・・ハル、とりあえず風呂に入ってこい。ゆっくりでいい」
「うん」
濡れた服を脱いで洗面所で絞ると、結構水が出た。
そのままお風呂に入ると、すでにお湯が張ってあった。
(早・・・あ、鬼鮫か。タオル取ったあと、入れてくれたんだ)
湯船につかっていると、人型となったスイレンが遠慮がちにお風呂の中を覗き込んでいた。
「おいで」
そう言えば、スイレンはホッとしたように控えめな笑顔を浮かべると、入って来た。
お湯が冷えた体をじんわりと温められていくのを感じながら、私は考えた。
(・・・私は、これからも何もできずに、みんなが死ぬのを黙って見ているのだろうか)
いやだ。
何かしたい。
何か私にできることがあるだろうか。
『・・・どうしたの?』
考え込んでいたのが顔に出ていたのか、スイレンが尋ねてきた。
「私、にできること・・・って、何かあるかな」
『できること?』
「・・・うん。スイレンも見たでしょ・・・サソリの、最期」
『うん』
「頭から離れないの。あのとき、もしかしたら助けられたのかもしれないって」
『うん』
「でも・・・きっと、サソリはそんなこと望んでいないんだよね。わかってる、でも・・・」
『?』
「でも・・・私は、死んでほしくないの・・・」
この言葉は、きっと今後一切誰にも言うことはないだろう。
(届かない・・・)