第32章 二年
時間はもうない。
けれどもパクパクと口を動かすだけで、言葉は何も出てこなかった。
サソリはそんな私を見てため息をついたあと、自嘲気味に笑った。
「オレはもうじき死ぬ」
「・・・」
「だが・・・せっかくだ。お前にいいものをやろう」
私の目から、涙が一粒こぼれた。
彼は私を見て少し笑い、「いいんだよ」と言った。
「オレも潮時だったんだ。それよりも・・・お前にいいものをやる。最期だからな」
「そ、そんなこと言わないでよ・・・」
「ハッ、本当に泣くんだな、お前。宣言通りじゃねーか」
「・・・」
「オレのコレクション、全部お前にやる。丁寧に扱えよ?壊したら殺すからな」
彼はそう言った。
私はただ頷くことしかできなくて、震える声で「ありがとう」と言った。
「なあ、ハル」
「っ・・・」
「お前も大変だなァ・・・オレは先にいっとくぜ」
―――彼はその言葉を残し、ガシャンと音をたてて倒れこんだ。
それから二度と言葉を発することはなかった。
『・・・ハル』
「・・・」
『えと、その・・・ま、まだ、いいよ。僕が傍にいるから・・・』
「・・・うん・・・」
どのくらい、そうしていただろう。
短い時間だったかもしれないし、長い時間だったかもしれない。
「これから、どうしたらいいんだろう・・・」
できればお墓を作りたいけれど、それは無理だと思った。
「・・・」
どうにかしてお墓を作りたいと思った結果、彼の一部分をもらっていくことにした。
身体(傀儡)の損傷が激しく、運ぶのは難しそうに思えたからだった。
「もらっていくよ・・・あの人たちが来る前に・・・」
傍に落ちていた、額当ても拾う。
もうじきゼツたちが、指輪を回収するために来るだろう。
「・・・行こうか。スイレン」
『うん』
スイレンは困惑しながらも頷いた。
「・・・優しいわね。ありがとう」
私が悲しいと感じていることはわかったのか、スイレンなりの慰めをしてくれているようだ。
立ち去る前にもう一度、彼の方を見る。
『行くよ』
「うん」
(・・・バイバイ、サソリ)