第32章 二年
「・・・あ?」
「ん?」
年配の女性と彼の声が重なり、その場にいた全員がこちらに顔を向けた。
女性の方はサクラと、おそらく“チヨバア”。
二人とも立っている。
「サクラ、お前の知り合いか?」
「・・・・クロ?どうして・・・ここに?」
サクラの質問には答えられなかった。
言葉が出てこない。
明らかに、この時の私は冷静さに欠けていた。
でも取り繕う余裕もない。
だって、今の“私”はクロじゃない。
「クロ?」
「あ・・・さ、サクラちゃん・・・」
特に話す内容も思い浮かばず、ゆっくりとサソリの方へ眼を向ける。
「ッあ、・・・・」
見たくない、見たくない、見たくない。
でもなぜか、目が離せなかった。
彼を貫いている刃が、滴り落ちる血が―――私の眼に焼き付いていくのを感じた。
小さく震える手を、悟られないように必死で抑え込んで、カラカラになった喉からやっとのことで言葉を絞り出した。
「さ、さ、サクラちゃん、早く行ったほうがいいんじゃないの」
「あ・・・我愛羅君!チヨバア様、急ぎましょう」
「・・・ああ」
チヨバアは最後までサソリを見ていた。
彼女なりの罪悪感があったに違いない。
彼女たちが立ち去るのを察知してか、サソリは最後にサクラに大蛇丸についてのヒントを残した。
彼女たちがいなくなると、その場には私とサソリの二人だけになった。
―――立ち去ると同時に、私は彼の目の前まで歩いた。そして、ついに膝をつく。
座り込んだ私を、サソリは不思議そうな表情で見ていた。
「・・・おいお前、オレに何か用か?」
「し、死ぬの」
「あ?」
「ね、え・・・サソリ・・・」
そこで私の変化が解ける。
ボフン、と煙の中から姿を現した私を見て、彼は驚いたように言った。
「お前・・・」
彼が何を思ったのかはわからない。
でも、そんなことどうでもよかった。
その時の私はたしかに、「死んでほしくない」と、そう思った。
「まさか、あの時のガキがお前だったとはな・・・お前、顔ひでーぞ」
「・・・どうして・・・」
「あ?」
「わ、私は・・・」