第30章 あなたがいない場所
「お前、死んだことあんのか?」
「うん、まあね。あ、ねえサソリ、サソリって身体は傀儡だけど、涙腺は残ってるの?」
「あー・・・どーだっけな。忘れたわ」
「もし残ってるなら、私が死んだら泣いてよ。私もサソリが死んだら泣いてあげる」
そう言うと、サソリは「誰が泣くかよ」と鼻で笑った。
私の肯定は完全に冗談だと思われたようで、みんなが笑っている。
「・・・まあいいや。じゃあもう私寝ますね」
「ん?寝んのか・・・うん」
「だって、イタチ兄さん帰ってこなさそうだし」
そう言うとみんなに「おやすみなさい」と言って、部屋へ向かう。
後ろからスイレンもついて来て、スイレンが部屋に入ったのを確認すると、ドアを閉めた。
ベッドに入ると、スイレンが話しかけてきた。
『ねえ』
「ん?」
『死ぬときって寝た感じといっしょって本当?』
「なんだ・・・聞いてたの?」
そう言うとスイレンはコクリ、と頷いた。
「・・・私は病気だったからね。最期は痛みを和らげる薬を投与されてたかな。副作用とかあったけど、そのおかげで死ぬときは痛くなかったよ」
『へえ・・・』
「死ぬときって、走馬灯が走るーとかよく言うけど、私はそんなのはなかった。ただ“私、死ぬのか”って思っただけ。死ぬのが怖くなかったと言えば嘘になるけど、でもそれは、“死”が漠然としてたからなのかも」
記憶はいつもでも色褪せることはない。
今も、昔も。
「・・・今は健康体だし自己修復もある。これってすごい幸せなことだけど・・・ねえスイレン、私って死ねるの?」
『うん。キミは一応人間だし、不死ってことはないよ。でも、さっきキミが言った通り、キミには自己修復があるから殺されることはまずないだろうね』
「そっかあ」
『・・・キミを殺せるのは僕だけ。キミ自身も、キミを殺すことはできない。ま、そんなときは来ないと思うけど』
「・・・そっかあ。じゃあ、そのとき頼んだよ、スイレン」
『でも大丈夫。キミが死ぬときは、僕もいっしょだから』
「いいよ、アンタは生きてよ」
『ううん。キミのいない世界なら、きっと僕は退屈するだろうから』
スイレンはそう言って、小さく笑った。