第30章 あなたがいない場所
「―――説明ありがとう。ネネは博識なのね」
『ありがと』
「あ、もう日が暮れてきちゃったね。私、そろそろ帰るわ」
ネネは『そうかあ』と少し残念そうに笑った。
「また来るよ」と言うと、ネネの頭を撫でた。
「ネネの髪ってサラサラなのね。羨ましいわ」
『・・・アンタも充分きれいやろ』
『おいおい、ワシもいるんじゃがのう。ワシのこと、忘れとらんか?』
「長さん、今まで静かだったんで、てっきり寝ていたのかと」
『ハハ、年寄り扱いしてくれるなよ。それはそうと、もう帰るのか?ハル』
「はい」
横で尚も寝ているスイレンを揺さぶって起こすと、スイレンはゆっくりと目をあけた。
「スイレン、帰ろうか」
『わかった・・・』
「じゃあ、みんな。バイバイ」
寝起きだというのに、スイレンはシャキッと歩き出していた。
寝起きが悪い私とは正反対のようだ。
『また来てなー!』
ネネが手をふる。
それに笑って返すと、私たちは帰路についたのだった。
「ねえ、スイレン」
『うん?』
「前の世界のことが、この世界に影響することってある?」
道中、スイレンは『どういうこと?』と首をかしげた。
「さっきネネと話したとき思ったんだよね。ほら、生理痛とかさ、私ひどい方だったんだけど」
『んー・・・さあね。僕もよくわかんない』
「そっかあ」
(・・・私、また病気になるのかな)
本当は、聞きたいことはコレだった。
でも、口に出してしまうのが怖い。
「ま、いいや。さっさと帰って、イタチ兄さんに甘えようかな」
『キミ、本当お兄さん大好きだね。僕、嫉妬しちゃうなあ』
「スイレンは素直でいい子ね。ていうか、私、スイレンを撫でるの結構好きよ」
『・・・もう、うまいこと言うんだから』
(また、自由に動けなくなるのかな)
脳裡に浮かんだ生前の私を片隅に追いやって、
(見えない恐怖ってこういうことなのかな)
なんて思った。