第30章 あなたがいない場所
スイレンはそれっきり何も話さなくなってしまった。
「寝たの?」と、声を掛けても反応がないので、そのままにしておくことにした。
「かわいい・・・」
寝ているスイレンは無防備で、思わず撫でてしまいたくなる。
口が緩んでいるのが自分でもわかった。
『アンタも大概、主様のこと好きよなあ』
「あは、そう見える?」
『うん、どっからどう見てもそうにしか見えんで。じゃあ、説明始めるよ』
ネネはそう言うと、いきなり人型になった。
そして、ズイ、と私との距離を詰めた。
「・・・近くない?」
『気にせんで。でな、薬の話やけど、アンタ、最近身体がなんかおかしいとか感じることない?』
「いや、ないけど・・・生理とか?」
『いーや。ふーん、じゃあこれからやんな』
「何が?」
ネネはチラリとスイレンを見たあと、私に視線を戻した。
『アンタ、主様が普通じゃないっていう話は聞いたことある?』
「存在がって話?・・・あるけど」
『なら話は早いな。ウチもよくわからんけど、主様って明らかに違うやん?そんで、主様から聞いたんやけど、アンタもそうらしいな』
「・・・私も?あー、そういうことね」
(転生したってことを言いたいのかな)
「そうね、私はこの世界の人間じゃない」
『・・・ま、そこらへんの事情は置いといて。薬はな、アンタの力を抑えるためのものや。抑制剤と思ってや』
「・・・抑制剤?いや抑えるも何も、私、そんな大それたものは持ってないけど」
『あんなあ・・・そう思うのは今だけで。これから月経が始まったらホルモンバランスの乱れでアンタ、不安定になるかもしれんやろ?』
「・・・」
『ええから、おとなしくウチの言うこと聞いてな?ええ?』
「あ、うん」
たしかに、まだ生理はきていない。
生前の私は生理痛がひどかったほうなので、こちらの世界でもそうなってしまうと考えると、げんなりする。
「わかった、ネネの言う通りにする。・・・で、それって毎日飲まなきゃいけないの?」
『ううん。主様にも言ったけど、あんまり頻繁に飲んどったら効果が薄くなるおそれがあるから、一か月に一回でええよ』
「わかった」
『その代わり、絶対飲んどいてや。もし忘れてしもうたときは、ウチどうなるか知らんで』
「・・・はーい」