第30章 あなたがいない場所
「ね、ネネ」
『あ、もしかしてびっくりさせてしもうた?ごめんなあ、この前のお兄さんの件で、アンタ、有名になってん。よかったなあ、有名人やで』
「あ、そういえばこの前、兄がお世話になったみたいで。ありがとね」
『ええって。イケメンさわれたんやし、ウチは得した気分よ』
そう言いながら、ネネは私とスイレンに、先ほどネネたちが出てきた方向の森に入るように提案した。
そうだね、と私たちはネネの言葉に従う。
岸に着き、私が歩き出すと、動物たちは道を開けた。
ふと、一匹のウサギと目が合う。
「・・・ごめんなさい、怖がらせるつもりはなくて・・・あ、逃げられた」
『野生やし、仕方ないんとちゃう?』
「・・・野生?」
逃げられたことに軽くショックを受けていると、ネネの笑い声とともにその言葉が聞こえた。
『大蛇丸の実験体はそこまで多くなかったし、増えたのかと思ったら、野生の動物もいたんだ。・・・あれ?でもこの前僕がハルのお兄さんと来たとき、いなかったよね?』
『あの時は、ウチら警戒しとったからなあ。ウチは知っとったけど、他の奴らは知らんかったし』
そんな会話を聞きながら、森の奥へ足を進める。
少し行ったところで、ネネが『あ、止まって』と言った。
足を止めると、目の前には大きな木があった。
『ここに長がおるはずなんやけど・・・』
そう言ってネネはどこかへ飛んで行ってしまった。
その場に取り残された私たちは、その大樹を見上げていた。
「スイレン、この木すごくない?何歳なんだろう・・・」
『んー・・・百年、二百年とかじゃない?』
「すごいなー」
『あ、ネネが戻って来たみたいだよ・・・ん?』
スイレンの声に目線をそちらへ向ける。
「・・・ん?」
ネネのくちばしには何かがあった。
白い、何かダランと垂れ下がったものが。
「・・・え、何くわえてんの・・・?へ、ヘビ?」
ヘビらしきものの微かな光沢―――なんというか、硬そうなその体の表面が見て取れる。
『ああ、あれは・・・』
「生きてる!?死んでる!?ちょ、ネネっ、こっち投げたら―――」
ネネは私の声など無視のようで、くちばしにあったヘビをポイ、と私の方に少し離れた距離から投げた。
「スイレン、キャッチぃぃい」
『ええ、僕!?』