第30章 あなたがいない場所
「あー、いいですよ。行きましょう」
めんどくさいという気持ちがなかったわけではないが、顔を覚えていてもらって損はないと思う。
「スイレンはどうする?」と聞こうとすると、立ち上がっていたので聞くのをやめた。
それを見たカカシはチラリと屋根を見上げたあと、ついて来いと言わんばかりに先に歩き出した。
それと同時に、スイレンの言っていた二つの気配が消えた。
(・・・なんか、私、結構警戒されてる?)
逃げるとでも思ったのか、それとも監視されているのか。
「あ、待ってくださいよー」
どちらにしても、表情には出さずやり過ごすことにした。
連れてこられたのは、火影室の前だった。
カカシがコンコン、とドアを二回ノックする。
「はたけカカシです」
「―――入れ」
中から聞こえたのは、女性の声だった。
芯が強そうだな、というのが声から受ける第一印象だった。
カカシがドアを開け、入る。
私もそれに続き、スイレンが入ったことを確認すると、閉める。
部屋の内装は三代目のときとは変わっておらず、見渡していると、若い女性と目が合う。
(あ、この人が・・・“シズネ”?)
そんなことを思っていると、カカシが私を呼んだ。
「クロ、ほら。こっち来て」
「あ、はい」
「綱手さま、クロを連れてきました」
カカシはそう言うと、一礼して後ろへ下がる。
どうやら部屋を出ていくのではないようだ。
私は、目の前の女性を見た。
「カカシ、ご苦労だった。さて、お前と会うのは二度目だが、一応自己紹介をしよう。私は五代目火影の綱手だ。そして、そこに立っているのがシズネだ」
「・・・改めまして、クロです。先日のご無礼をどうかお許しください、綱手姫。あ、この子はスイレンです」
綱手は「姫」という呼び名に一瞬眉を寄せたものの、すぐに元の表情に戻った。
「フン・・・お前は三代目と親しかったと、カカシから聞いている。お前はこの里の人間ではないだろう?」
「三代目様とは個人的によくしていただきました。確かに、私はこの里の人間ではありませんが・・・」
三代目とのことを根掘り葉掘り聞かれるのは、こちらにとってもあまりよろしくないので、本題に入ってもらうことにする。
「聞きたいことは違うのではなく?」