第29章 スイレンとイタチ
(あの時、ということは・・・ハルはサスケを守るとき、写輪眼を開眼したということになる)
(しかし・・・あの時のハルは、まだアカデミーにも行っていない子どもだぞ・・・?)
「その・・・ごめんね、イタチ兄さん。黙ってて・・・」
不安そうにイタチを見上げるハルに、「もういい」という意味も込めて、頭をなでて、手を握った。
そう、あの日は―――・・・あの日もたしか、ハルの手をひいて、出かけたんだ。
皮肉にも誕生日だった。
母に作ってもらった白いワンピースを着て、嬉しそうに笑うハルを見て、自分も嬉しくなった。
その数時間後だった。 あの悲劇が起きたのは。
目の前で起きたあの悲劇は、二度と起こらせない。
イタチがハルを過剰に心配するのは、その決意があるからともいえるだろう。
「イタチ兄さん?」
「・・・写輪眼は、あまり使うなよ」
「うん、わかった」
「いい子だ」
(お前は、オレが守る)
イタチはハルの手を離すと、もっと近くに来い、と促す。
二人の間には微妙な距離があったが、ハルがそれを埋める。
ハルの固かった表情が柔らかくなっていくのを見ると、自然とイタチの表情も同様になっていく。
そこで、ふと今日スイレンから聞いた話の中で、気になっていることを聞いてみることにした。
「ハル、お前にいくつか聞きたいことがある」
「ん?」
「・・・嘘はつくなよ?」
「わかってるよ」
念を押すと、ハルは笑って答えた。
「・・・お前のその手の呪印・・・前に誰にやられたかと聞いたとき、お前は言いたくないと言ったな」
ハルはまさかその話題がくると思っていなかったのか、身体を固まらせた。
「・・・大蛇丸に、やられたのか」
ハルは黙っていた。
目線を下に向けているハルの表情からは何も読み取れない。
そしてしばらくしたあと、ハルは目線を上げ、答えた。
「・・・スイレンに、聞いたの?」
ハルは肯定とも受け取れる返答をした。
だが、それは心に留めておいて、「いや・・・」と言った。
「スイレンに聞いたのね。アイツ、言うなって言っておいたのに・・・」
最後の方は小さな声で聞き取りにくかったが、ハルはイタチがこれを知った原因はスイレンだと確信しているらしい。