第29章 スイレンとイタチ
「い、今の、」
「見ていた。そこでお前に聞きたいことがいくつかあるのだが・・・」
「う・・・」
ハルの目は、いつもの黒に戻っていた。
イタチの言う「聞きたいこと」は想像できたようで、ハルはバツの悪そうな、苦笑いをした。
「帰るぞ。オレたちは先に戻らせてもらう」
「どうぞ。私たちはもう少ししてから戻りますね」
状況が状況なせいなのか、いつもにまして威圧感を感じさせるイタチ。
そんなイタチの肩に担がれたハルは、どう見ても委縮していた。
「こえーな・・・うん」と呟いたデイダラだったが、そう言ってしまうのも頷けた。
スタスタと去っていくイタチの背中を―――いや、正しくはハルを見送りながら、その場にいた全員がイタチの説教コースを思い浮かべたのだった。
連れてこられたのは、イタチの部屋。
ベッドの上に下ろされて、その隣にイタチも座る。
重たい空気が部屋におちて、まだ何も言われていないのに呼吸をするのもはばかられる。
「―――ハル」
「・・・なに・・・?」
「勘違いするな、別にオレは怒ってるわけじゃない」
イタチはそう言って、ハルの頭を撫でた。
ハルは意外そうな表情を隠そうともせず、「怒ってないの?」と不思議そうに聞いた。
「ああ。ただ・・・まあ、関心はしてない」
「う・・・」
「それで、いつからだ?」
「え?」
「いつ、写輪眼を開眼させたんだ?」
イタチが気になるのも当たり前といえばそうだろう。
里を抜けることになってから、ハルが自らイタチの前から姿を消した二年の空白があるものの、二人はいっしょに生きてきたのだ。
気にならないわけがない。
「・・・」
ハルは少しの間、黙っていた。
どうするか悩んでいるようにも見えたが、チラリと横目でイタチを見たあと、顔を上げた。
「・・・結構、前だよ。ここに来る前かな」
「前・・・?」
「うん。ほら、昔さ・・・私が刺されたときあったでしょ?その時が最初みたい」
「そんなに、前から・・・」
「ううん、私、あの時のことあんまり覚えてなくて。スイレンに教えてもらったんだけどね」
イタチの脳裡に、あの時の光景が甦った。
思い出したくもない、忌々しい記憶。
サスケを庇ったハルは赤く染まっていた。