第29章 スイレンとイタチ
イタチはその様子を眺めながら、鬼鮫のところへ行く。
鬼鮫はイタチが来たことに気付くと、軽く会釈をした。
「帰っていたんですか、イタチさん」
「ああ、ついさっきだが」
「なるほど。どうです、イタチさんも混ざりますか?」
「いや、オレは・・・」
拒否の意を感じ取ったのか、鬼鮫は「そうですか」とだけ言って、自分の隣に座るように促した。
「おい、これは一体・・・」
「あ、イタチさん、次はハルさんみたいですよ」
「・・・は?」
バッと顔を上げる。
鬼鮫の言った通り、さきほどデイダラたちがいたところにハルが立っていた。
オドオドとした様子で、後ろをチラチラと見ている。
そこには飛段がおり、「角都なんてぶっ飛ばせ!!」と言っている。
相手は角都のようで、デイダラが角都を引っ張ってハルの目の前へ押しやる。
「おい、ハル。やめるか?アイツらのことは無視してもいいんだぞ」
「い、いえ、せっかく・・・こんな機会、二度とないでしょうし、」
「そうか」
ハルは緊張気味で、たどたどしく話している。
おそらく、戦うということに慣れていないと同時に、イタチが争いごとから極力関わらせないようにしていたせいで、どうすればいいのかわからないのだろう。
イタチが視線をスイレンへ向けてみると、スイレンは固まっていた。 口が開いている。
「アイツ・・・止めないのか?」
この時のスイレンは、どうすればいいのかわからず、固まっていただけだった。
イタチにはそんなこと到底わかるはずもなく、視線を妹へ戻す。
「いくぞ」
「は、はい」
角都のその言葉が聞こえ、その場の全員の視線が集まる。
角都は、ハルをやはり戦い慣れしていないと感じたのか、目に見える手加減をしていた。
S級犯罪者である暁のメンバーは、禁術を扱っている者もいる。
全員が本気でやれば、大きな国でも落とすことができるかもしれない。
そんな実力を持っているメンバーの「遊び」とは、普通の人間とはレベルが違うのだ。
角都はハルに対し、軽い体術を繰り出していたが、ハルはすべて避けていた。
ハルは少しムッとした表情で、「角都さん、」と彼の名前を呼んだ。
「なんだ?」
「それくらいなら私にだって、避けることができます。変に気遣ってもらわなくても・・・」