第29章 スイレンとイタチ
二人がアジトについたのは、空が茜色に染まった頃だった。
「あれ、イタチ?お前、出掛けてたのか」
「ああ。サソリ、他のみんなは・・・」
アジトのなかにはサソリ以外、姿が見受けられなかった。
外出したとしても、こうも全員が不在となるのはめずらしい。
オオカミ姿に戻ったスイレンがハルの姿を探す。
イタチが「ハルは?」と聞くと、サソリは口元に笑みを浮かべながら言った。
「オレ以外のヤツは外にいる」
「何してるんだ?」
「遊び。ちょっとした運動だ」
訝しげに眉をひそめるイタチと、眉はないが眉間に皺がよっているスイレン。
サソリはそんな二人を見ると、「言っとくが、飛段から言い始めたんだからな」と言った。
「オレのせいじゃねーから」
サソリはそのまま二人の横を通り過ぎ、外に出て行った。
二人はどちらともなく顔を見合わせると、サソリのあとをついて行った。
サソリが向かったのは、アジトから少し離れた見晴らしのいい場所だった。
とはいえ、やはり森の中なので、人目にはつかない場所だ。
よくこんな場所を見つけたなと思う。
だが、問題はそこではなかった。
「おい、サソリ・・・」
「オレに聞くな」
イタチの目の前では戦いが繰り広げられていた。
デイダラと鬼鮫が戦っている。
二人ともが楽しそうな笑みを浮かべているところから察するに、これがさきほどサソリが口にした「遊び」ということだろう。
「今のはちと危なかったな・・・うん」
「のんきに話している暇はありませんよ」
「うわっ―――」
次の瞬間、デイダラは吹っ飛ばされ、木に体をぶつけて止まった。
「イテテテ・・・オイラの負けだな、うん」
どうやらこの勝負、鬼鮫の勝ちのようだ。
鬼鮫は、鮫肌をおさめるとデイダラのところまで行き、デイダラの手を引っぱって立ち上がらせた。
「すまねえな・・・うん」
デイダラは腰についた土を払うと、ある方向へ向かった。
そこへいたのはハル。
飛段の隣で、何やら彼と話している。