第29章 スイレンとイタチ
イタチの質問に答えたのは、長ではなく、スイレンだった。
「そうだね。ハルとその・・・大蛇丸だっけ?ソイツは接触済みだよ。あー、顔はわかるんだけど、名前がよくわかんなくて。ハルが時々『オカマ野郎』って言うからわかんなくなっちゃうんだよね」
「あはは」と笑い声をあげるスイレンに、イタチの質問が飛ぶ。
「ハルは・・・あの男と関わりがあるのか?」
「あ、勘違いしないでよ。ハルは大蛇丸のことは好きじゃないみたい。不本意ながら接触してしまったって感じかな」
「・・・」
そして、イタチが何やら考えをめぐらせ始めたとき、スイレンが付け加えるように言った。
「ちなみに、ハルの左手の呪印は、大蛇丸につけられたものだよ」
「・・・!?」
この時のイタチのリアクションは、今日一番のものだった。
一瞬だけ感情がむき出しになっていた。
「・・・おい、どういうことだ」
「ハルとしてじゃなく、別の“形”で、だけど。言っとくけど、これ以上は言えないよ。ハルが、お前に黙っておくのが心苦しいと感じているから、代わりに僕が代弁した。・・・わかるか?」
「・・・」
「ハルは、お前を“直接”騙すことはいやだったみたい。どんな形でも、お前を裏切りたくないとも思ってるんだろうね」
イタチは黙って話を聞いていたが、やがて、小さくため息をつくと、どこか諦めたように笑みを浮かべた。
「今聞いたのが事実なら、アイツの放浪癖は一生治りそうにないな。まったく・・・隠し事の多いヤツだ」
「ハルには僕が言ったって言わないでね」
「ああ、そうしよう。だが、バレるかもな」
「うー・・・僕、ハルに嫌われたら生きていけない・・・」
どうやら、イタチのスイレンに対する警戒心は解けたようで、そしてスイレンもまたイタチに対して同様だった。
お互いが“うちはハル”という少女が大切。
だが、イタチとスイレンでは背負っているものが違った。
「うちはイタチ。僕はお前を信用することにする。でも、いざとなったときは必ず僕がハルを助けることができる。なぜなら僕の第一優先はハルだから。でも、お前は違うでしょ?」