第29章 スイレンとイタチ
ネネは何かを言いたげに黙った。
イタチの診断は終わったのかフクロウの姿に戻り、「材料探してくる」と言うと、どこかへ行ってしまった。
「やれやれ、若いな。お前さんのことはまだ完全に信頼できていないようだ」
「別にかまわない。オレも信頼してもらおうとは思っていないからな」
「そうか。ならいい」
「ああ」
そこで会話が途切れる。
そして、気を取り直したように長がまた話し出した。
「で、話を戻すが・・・ワシはな、せめてネネだけでも逃がそうと思ってな。人間と意思疎通が可能で、移動もできるネネならあの男から逃げることができるだろうと思ってのことだった」
「だが・・・アイツは馬鹿じゃのう。ワシらを見捨てることができずに、人間に頼んでワシらを助けたらしい」
「愚かなことを・・・人間など当てにするものではないというのに」
「と、まあ・・・その人間というのが、ハルじゃな。売られそうになっていたワシらを助ける手助けをしてくれたらしい」
イタチは黙って話を聞いていた。
大蛇丸の実験体と話をすることになるとは思ってもみなかったが、そこに妹が関わっているのなら話は別だ。
妹が外で何をしているのか、それが少しでも知れる気がした。
「ハルはワシらを逃がしたあと、自らワシらに干渉しようとはしなかった。・・・あんな人間を見たのは初めてだった。ワシらに気を遣って、人間である自分が怖いだろうから・・・という理由だったらしい」
「それで、ネネに連れてきてもらって、ある提案をしたのじゃ。“ワシらと一緒にいてほしい”みたいなことをな」
「ま、当然断られたわ。それにワシも本気で言ったわけではない。試したのだ。本当に信頼できるのか、と考えてな。・・・でも、ハルは“二、三年後ならいいよ”と返事をくれた」
「嬉しかったのう。ワシらの言葉をちゃんと聞いてくれる人間に出会えたのは、これ以上ないくらいの幸運じゃな」
長の声は嬉しそうなものだった。
妹の一面が垣間見えた気がした。
だが、それより、イタチのなかにはある疑問が浮かんでいた。
「質問、いいか?」
「ああ」
「お前は大蛇丸の実験体だと言ったな。そして妹に助けてもらったと」
「ああ」
「・・・妹は、大蛇丸と何らかの形で接触したことがあるのか?」