第29章 スイレンとイタチ
「これはこれは、めずらしい客じゃな。・・・ん?人間・・・?」
ヘビはイタチを見て、不思議そうに呟いたあと、スイレンを見上げた。
「大丈夫、コイツは危害を加えるような人間じゃない」
「ほう・・・そうか。ワシはまあいいが、他のやつが怖がるようなことはしないでくれ」
ヘビはイタチではなくスイレンに言った。
どうやら警戒されているようというよりも、先程の動物たちのことを気にかけて言っているようだった。
「と、まあ・・・そなたが人間を連れてくるなんて、明日は雨が降るのう。どういう風の吹きまわしか?」
「ったく・・・お前は毎回一言多いんだよ。まあ用件と言えば、この男を診てほしいんだ」
「ほう」
「ついでに言うと、この人間はハルのお兄さんだよ。言ったからね、あとで聞いてない!なんて言わないでよ」
ヘビはスイレンの言葉に、イタチを見て、そしてまたスイレンへ視線を戻した。
「本当か?」
「うん」
ヘビは少し黙ったあと、大きな声を出した。
「お前たち、この人間はハルのお兄さんらしいぞ」
ヘビがそう言うと、動物たちがぞろぞろと出てくる。
そして、一頭のシカがイタチの匂いを嗅ぎ出した。
「・・・おい」
「挨拶や、挨拶!そんな怖い顔せんで?せっかくのイケメンが台無しや」
「・・・」
イタチはまだ名乗っていなかったが、自分がハルの兄というだけで警戒を解かれるというのは理解できていなかった。
「妹が何の関係があるんだ?」
「ん?あー・・・ま、いろいろあってな。アンタ、こっちきて座り?ウチが診てあげる。―――みんな、ちょっとこの人借りるなあ」