第29章 スイレンとイタチ
「ま、ここで会ったのも何か縁だし、そこでちょっと話そうよ」
そう言って彼女が指さしたのは近くにあった茶屋。
「いや、オレは・・・」と断ろうとすると、すごい目で見られた。
「・・・なに、急ぎの用でもあるわけ?」
「・・・薬局を探しているのだが」
「薬局?そんなのあとでも行けるでしょ。せっかく僕が誘ってるんだから、断らないでしょ」
半ば強引に椅子に座らされ、
なんだ、この女。
何でこんなに俺様なんだ?いや、女だけれども。
「お前、そんなキャラだったのか?ハルの前でもそんななのか?」
「何それ・・・僕がひどい性格してるみたいな言いようだけど」
「いやそこまでは言ってないが・・・オレが見る限り、ハルのお前に対する信頼は厚いと思う」
「へえ、嬉しいな。それをハルの口から聞けたら泣いて喜ぶね」
「・・・」
どうもこの女は、妹のことが相当好きらしい。
いや、好きを通り越して心酔しているレベルだ。
態度というか言葉からというか、すべてから滲み出ている。
「で、なんだっけ。薬局探してるの?」
「ああ。ここにはよく来るのか?」
「・・・たまに。どこか悪いの?」
「ちょっと咳がひどくてな。これ以上ハルに心配をかけるわけにもいかないからな」
すると、彼女は少しの間、考え込むような素振りを見せたあと、イタチの顔を見て言った。
「そんなところ行くなら、僕たちが診てあげる」
「・・・は?」
「ハルのお兄さんでよかったね。ついてきて。ここから少し離れてるから」
彼女は最後の団子を口に入れると、食べながら歩き出した。
あまりの急な展開にイタチがついていけないでいると、ふり返ったスイレンに「置いていくけど」と言われた。
慌てて追いかけると、彼女はイタチの顔を横目で見て、前に向き直った。
「・・・なんだ?」
「羨ましいほどに顔が整ってる」
「は?」
「ってハルが言ってた」
「・・・そうか」
「顔、緩んでるけど」
「・・・」
そうしてスイレンは町を出ると、イタチが来た道の方へ向かった。