第17章 波の国の悲しさ。
「人じゃない、もっと大きなもの」
分かる?とイナリの目をまっすぐ見る。
「あー・・・ごめん。要するに、イナリくんにはタズナさんとツナミさんがいるでしょ・・・幸せとは言えないかも知れけど、それでも、十分幸せなんじゃないかな」
「・・・」
「さっきはひどいこと言ってごめん・・・バカなのは私だね」
「・・・」
「頑張れ、イナリくん。辛いのは分かるよ。でも、キミだって、大好きだったんでしょ」
誰が、なんて言わない。
肩に手をポン、と置いたあと、「頭冷やしてきます」と言って、外に出る。
後ろを振り返ると、スイレンとネネがついてきていた。
なんとなく予想は出来ていたので笑ってみせたけど、スイレンは何も言わずに黙って私についてきた。
「あーあ・・・やってしまった・・・」
向かったのは森の中。
見上げる夜空はとてもきれいで、ふとイタチのことを思い出した。
怪我してないかな。ちゃんとご飯食べてるかな。低血圧だからって朝不機嫌になってないかな。
(この歳にもなって、ホームシックか)
バカみたいに思えて少し自嘲気味に笑う。
すると、スイレンが不意に私の名前を呼んだ。
『キミも意外にアツい性格なんだね』
「うるさい。あと、違うから。ただ、ちょっとムカついただけよ」
大人げなかったな、と思う。
『何にムカついたん?』
「・・・ネネもそこ聞くのね。まあ、いいや。だって、腹立つもん。あり得ないよ、お母さんとおじいちゃんが生きてるのに、何アレ!いくら小さくても、二人の気持ち考えろって思わない?」
『え、うん・・・?』
「そんなの、兄さんたちのほうが――・・・」
そこまで言って、無意識に握りしめていた手のひらの力を抜く。
(イタチ兄さんとサスケ兄さんの苦しみは、もっと・・・)
「―――・・・ハァ。とにかく、私に言わせれば、贅沢なモンよ。確かに、あの歳でお父さん亡くなくなったのはツラいけどさ・・・」
それでも、少なくとも前の世界の私よりは幸せだと思うけどな。
「って・・・なんで私が被害者面してんの」
ガシガシと頭を少し乱暴に掻くと、後ろから人の気配がした。