第17章 波の国の悲しさ。
「ねえ・・・イナリくん」
沈黙を破ったのは、自分でも驚いたが、私だった。
「悲しいのは、辛いのは・・・自分だけだと思ってるの?」
その言葉に目を見開いたのは、その場にいた全員だった。
「ねえ?答えてくれなきゃ分かんない」
「・・・」
「まあいいや。聞かなくても分かってるからさ」
(こんなこと、言うつもりじゃなかったのにな)
「ナルトくんにあたってすっきりした?最初から諦めてるのに、バカみたい。私、今のイナリくん嫌いだよ。泣くことしかしてないじゃん」
「そ、んなの・・・!お前に関係ないじゃん!」
「当たり前でしょ。だって私、イナリくんのこと全然知らないし。あたるのは簡単だよね。そうやって、理不尽に感情の矛先を人に向けただけだもん」
「ちょっと、クロ・・・!アンタも言い過ぎよ!」
サクラが私のことを非難するように言うが、私は何かのスイッチが入ってしまったみたいに、サクラの言葉にも耳を貸さなかった。
「守ってもらってるくせに。自分だけが、不幸だと思うのってさ、そういうの被害者面っていうんじゃない?」
おじいちゃんとお母さんがいるのに。
「贅沢だよ。少し教えてあげようか、ナルトくんのこと」
いつの間にか止まってしまったイナリの涙。
その目はまだ充血していたが、しっかりと私を睨みつけていた。
それを横目に、ゆっくりとイナリの座っている席に近付く。
「他の人のこと、勝手に話すのは良くないけど・・・あとで謝っとこっかなあ」
(あー、もう・・・こりゃ嫌われたこと間違いなしだな・・・)
内心、複雑な心境だったが、もうこうなったらヤケクソだ。
(あーあ・・・いっそのこと、嫌味なヤツって思われてもいいわ)
「ナルトくんね・・・両親いないんだよ。それどころか、最近まで里の人間に嫌われてね。ずーっと一人ぼっちよ?」
「っ・・・」
「それでね・・・」
そして、イナリの耳に顔を近付ける。
「サスケは、一族皆殺し。生き残ったのは、サスケだけ」
小さく聞こえるか聞こえないかの声で言ったが、イナリの耳にはしっかり届いたようで、私の方をバッと向いた。
その目は揺れている。
「ちなみに、私も両親いなくてね。殺されたの」
その言葉に視界の横でカカシがピクリと反応したのが分かった。