第15章 “自己修復”というもの。
「ねえ、血が出ない」
『ごめん、意味分からない』
唐突に言うと、スイレンから鋭いツッコミが入った。
まあそりゃそうだよね、と苦笑いをして言い直す。
「間違えた、血は出る。でも・・・」
『でも?』
「・・・前にさ、スイレンが私のケガ治してくれたことあったよね」
『ああ!初めて会った時のこと?』
スイレンは思い出したように言った。
私とスイレンが初めて会った時。
私があの男から受けたケガは、決して浅いものではなく、中にはもう痕が残るんじゃないかと思ったのもあったけど、それをスイレンは一瞬で治してくれた。
そして、そのあと、スイレンは私の血を舐めて言った。
“僕は対象者の身体に触れていることで、傷を治すことが出来る。それがたとえ、致命傷であっても、ね”
“これで、キミは僕の力を共有できるようになったよ。”
“だから、僕がキミに触れていなくてもキミは自分で傷を修復できる”
「・・・そのとき言ってたことが、今さっき分かった気がする」
『うん。キミが覚えているなら、僕があの時言った通りのことだよ』
「そう。でも、血が出ないのってちょっと人間としてありえなくない?」
率直な感想を述べると、スイレンは頭に“?”を浮かべた。
「だって、普通そうでしょ。さっきまで私も忘れてたし、ガラス力いっぱい握ったって血が出なかったんだよ・・・!?」
どうやって隠し通せって言うんだ!と大袈裟なジェスチャー付きで半ばやけになって聞く。
『あー・・・そこらへんは考えてなかったかなあ。ん?・・・ちょっと待って、さっきの言葉は聞き捨てならない、何でそんなことしたの痛くなかったの!?』
考えてないの?と聞こうとするとその言葉が出る前に、スイレンの一瞬のマシンガントークが垣間見えた。
若干、その剣幕に押されながらも、
「い・・・痛かった・・・かな?」
と、自分でも分からない疑問形で返すと、スイレンは長いため息をついていた。
『もう、キミは本当、そうやって・・・』
「まあ、治ったし、いいじゃない」
そして、ふと思いつく。
「もしかして、そのままにしとけばいいんじゃない?」
と。
そのことをスイレンに告げると、
『またまた、すごい発想だね』
と言われた。