第10章 逃げ込んだ先に。
無言が続く。
イタチはしばらく何やら考え込んだ後、「俺の部屋でもいいか」と聞いた。
『・・・いいけど』
スイレンはめんどくさそうに呟いた。
『ハルはね、お前たちが思ってるよりもずっと強い。もちろん、忍としての力もあるけど、それ以上に優しい。まあ、そんなこと言わなくてもオニイサンのお前にはそんなこと分かってるよね』
「・・・ああ」
『ハルは賢いから、お前が考えることなんてすぐに分かると思うよ。だから、ハルはそれを汲んだ上で生活している』
「・・・分かってる」
『ハルが今生きているのは、ハル自身の為だけじゃない。・・・―――お前の為だよ』
そう言うと、スイレンはイタチを真っ直ぐ見つめた。
イタチはしばらく目を伏せて、ハルの頭を撫でる。
綺麗な黒髪は相変わらずで、そういえば母さんもこんな髪だったかなと思い出す。
「・・・分かってる。全部、分かってるから。コイツが優しいことも、賢いことも、―――・・・俺が、ハルに甘えていることも」
スイレンはその言葉を聞くと、ハハッと笑い声をあげた。
『人間って弱いよねー。押したらすぐ倒れちゃう』
「事実・・・だからな」
『・・・僕はさ、お前とは関係ないけど、お前がハルのこと大事に思ってるのは分かる。ハルだって、お前のことすごく慕ってるっていうのは僕にだって分かる』
イタチはその言葉を聞くと、フッと笑った。
「・・・どうだかな」
『は?ハルのこと疑ってんの?馬鹿なの?』
「・・・俺はアイツのこと、何にもしてやれてない。守ってすらやれなかった」
俺は、弱い。
イタチにとって、ハルの二つの事件は昨日のことのように思い出せた。
『さあね。そうなんじゃない?』
「・・・・・・」
『まあ、実際、年齢的にもハルの方がお前より上だしね』
「・・・はっ?」
『おっと、これは言っちゃ駄目だったかな?まあいっか。じゃ、そろそろ僕は元に戻るよ。ハルが起きるからね』
「おい、待て、どういう・・・」
スイレンが一瞬で白いネコに変わると、それと同時にハルの目が開いた。