第10章 逃げ込んだ先に。
「・・・ん」
ふと目を開けると、何とも言えないような顔をしたイタチと目が合った。
「・・・ど、どうしたの」
「・・・いや・・・」
「・・・スイレンね 」
どうせさっきイタチと話したんだろう。
「スイレン」
『ん?』
私が名前を呼ぶと、スイレンはひょっこりとネコの姿で出てきた。
「イタチ兄さんに何か言ったでしょ」
『えー?』
「む・・・」
スイレンとイタチを交互に見るが、スイレンはヘラヘラと、イタチは困ったような顔をしてばかり。
「・・・イタチ兄さん。さっき、白い髪の美人ここにいなかった?」
「あ、ああ・・・」
「ちょっと、スイレン!やっぱり居たんじゃん」
『えー、でもちょっと話しただけだよ?何か変なこと言ったわけでもないし』
「・・・何言ったの」
何か嫌な予感がして、眉を寄せる。
スイレンは相変わらず答える気は無いようで、尻尾をゆらゆら揺らしている。
これじゃ埒が飽かないと踏んでイタチの方を向く。
「・・・イタチ兄さん」
「な、何だ」
「何か変なこと言われた?」
「・・・むしろ分からんことばっかりだ」
硬直。
即座にスイレンの首を掴むと、ニッコリと笑いかける。
「スイレン?何を言ったの?さっさと言え」
『い、いやあ・・・アハハ・・・ちょっと歳が上っていうことをうっかり口を滑らせたっていうか・・・』
「・・・どういうこと?」
我ながらイタチに見せれない顔をしていると思うので、イタチに背を向ける。
ネコになっているスイレンは目を合わせようとしない。
『・・・エヘッ』
誤魔化すように言ったスイレン。
本物のネコじゃないくせに、ニャー、なんて鳴くから何だか罪悪感が湧いてきた。
「・・・もう、仕方ないな・・・いいや」
私も脱力して、スイレンを下に降ろす。
ごめんね、とさっき掴んだところを擦る。
『こ、地味に怖かった、ハル・・・』
「・・・そう?まあ、スイレンのその可愛さに免じて許す」
『えっ、僕可愛い?』
ねえねえ、とそのあとしつこかったので抱っこして黙らせた。
『逃げ込んだ先に』
“後悔はいつも遠くに”