第10章 逃げ込んだ先に。
「寝たのか?」
返事はない。
「・・・きっと疲れたのよ。子供だし、色々あったんじゃない?」
「・・・しかし、本当に何処に行っていたんだろうか」
『そんなこと、お前たちには関係無いでしょ?』
いきなりの第三者の声に三人はそれぞれ席を立つ。
「お前は・・・」
そこにいたのは、いつか見た女。
紛れもない、スイレンである。
そして、その様子を見ていたスイレンが怪訝な顔をして口を開いた。
『ちょっと。あんまり大きい声出さないでくれる?ハルが起きちゃうじゃん』
「・・・お前、ハルの何だ?」
『僕?―――っていうか、人間のくせに僕に向かってお前だなんて、ちょっと生意気過ぎない?』
チラ、とスイレンは横目で三人を見る。
そして、言ったのがイタチだと分かるとハアと溜め息をついた。
『まあ、いいや。・・・今、お前を殺したらハルが悲しむからしない。ハルに感謝するんだね?』
僕の、人間を生かすか殺すかは“ハルが悲しむかどうか”の問題なんだよね。
スイレンは、自分の白い髪を片手で摘まみながら三人の方を見ずにそう言った。
『―――で、僕が何で出てきたかというと、』
「・・・・?」
『さっき、そこの女。アンタさ、ハルに“あなたが帰ってきてくれた”とか何とか言ったよね。・・・それさ、何を思って言ったの?』
「は・・・?何って、別に」
『ああ、別に何か言おうってわけじゃないよ。ただ、ハルがさ、何とも言えなさそうな顔してたから』
「・・・どういうことだ?」
んー、と考えていたスイレンだったがいきなり「立つの疲れる」と言い出し、一旦椅子に座ることになった。
『・・・ハルはさ、ココに戻ってくる前にさ、“ココ”は自分の居場所じゃないって言ってたんだよね。お前の居場所であって、自分のじゃないって』
「・・・・」
そう言って、スイレンはイタチを指差した。
『ねえ、お前さ、本当にハルのこと分かってるの?』