第10章 逃げ込んだ先に。
(まだ、泣いてないじゃん)
頭ではそう思っていたけど、言葉にすることが出来なかった。
必死に口を噛み締めて、目から温かいモノが零れるのを堪える。
そして、とうとう溜まったソレは頬を伝ってイタチの服にシミを作った。
「・・・とにかく、」
イタチは、ハァ、と言葉を区切った。
「・・・心配した。お前がいない間、俺がどれだけ心配したと思ってる」
その言葉と共に、顔を上げると、イタチの表情はまだ少し怒っているものの、眉を下げて悲しみというか、安堵の表情を浮かべているようにも見えた。
「ごめんな、泣かすつもりはなかったんだ」
「・・・――――」
「ん?」
「わ、ハルのこと・・・心配してくれてた、の・・・?」
私がその言葉を口にすると、イタチは、呆気に取られた顔をした。
「お前、何言ってるんだ・・・?」
「あっ・・・。やっぱり何でもない」
心配されることに慣れていない私は、思わず言ってしまった。
だけど、よく考えれば聞くのはおかしいことで。
「ご、ごめん・・・イタチ兄さん・・・」
イタチは何も言わず、私の少し濡れている頬を両手で包むと目尻のソレをグイと拭った。
「・・・ねぇ、イタチ兄さん、ごめんね。勝手なことしてごめん」
それでもイタチは眉を下げて、私を抱き締めるだけで、何も言わなかった。
(・・・やっぱり、許してもらえない・・・?)
「・・・ごめんなさい・・・あ・・・“申し訳ありません”・・・」
その言葉にイタチはバッと私の肩を持つと、その言葉を繰り返し言う私の顔を目を見開いてみていた。
「・・・もうしわけありません。ゆるしてください」
呪文のように唱える。
前の世界での謝り方だ。
まあ、まずあの人たちは私を怒るようなことはなかったけど――――。