第5章 指輪滑伝〔黒〕(逆ハー夢)第一章
「あ、指輪…」
すっかり忘れてた、と指輪を拾おうと虎に向かってジリジリと近づけば、そいつは「きゃん!?」と犬のように吠えたかと思うと、その指輪を咥えて脱兎のごとく逃げ去った。
「待てこの虎犬ーーーー!私の…指輪ぁぁぁぁ!!!」
あたしゃそれがないとーーー!叫びながら追いかけようとするが、向こうは時速80キロ全力で走っていく。
「おいおい。追いつけねえから待て」
孫策さんはそう言って、むんずと私の首根っこを掴んで持ち上げた。
ふわりと体が浮いてしまったが、私は虎しか見えていないため、空中で足をバタつかせる。
そんな中、
「…何してんスか…孫策さん。ていうか誰?」
馬に乗って現われたのは凌統さんだった。そして、それ。と言って手に持っている私を指す。
「さぁ」
その問いに、孫策さんは当然のように首をひねる。
「は?」
孫策さんの反応に、一瞬凌統さんは目を点にさせたが、疑問に思う間もなく、
「凌統。馬かしてくれ。
坊がこいつの指輪咥えて逃げちまって」
「あ、え・ええ。了解です。
こいつ使ってください。今もう一頭呼びます」
孫策さんはその馬にまたがった時、もう一頭の馬がやってきた。
「ちょ、私も行きますから!!乗りますから!!!」
そう言って、またがろうとする凌統さんを押しやった。
「痛い痛い!なんなの、お前」
しかし、乗馬なんてしたことない。
孫策さんの見よう見まねで華麗にジャンプしてみるが、跳躍力が足らずに落馬…よりも無残な馬落ちを見せた。
「「ぶっはーーー!!」」
自慢じゃないが、私は運動神経は悪い。
「む、無理だろ、お前にはどう考えても…孫策さんみたいな乗り方は…」
肩を震わせて笑う凌統さんは苦しげにそう言いながら、私の脇を掴んでひょいっと持ち上げた。
「うわあああお・降ろせーーーー!!」
「暴れるな、こら!」
さっきから人を物のように持ち上げて、なんなのさ!なんなのさ!
「…はっはっは。一人でにぎやかな娘だな。
さぁて坊を追いかけるか」
大体場所の見当はつく、と言って孫策さんは馬を走らせ、凌統さんもそれに続いた。