第7章 新生活も慣れれば日常
そしてこの生活も続けて1ヶ月。
特にこれといった進展のないまま月日がすぎてしまい、気が付けば夏真っ盛りのジリジリ暑い季節になってしまった。
「暑いし、熱いし…よくこんな所で働いていられますね」
「もう十何年とここに仕えてるからね、俺様も慣れるまで辛かったよ」
今となっては佐助と自然に会話を続けることができるようになった。だが、まだ完ぺきに心を開いてくれたわけではないようだ。あの張り付いた取り繕う笑顔は剥がれ落ちそうにない。忍びという立場上をそれは無理だとわかっているのだが。
「ちゃんのいた先の世もこれくらい暑かった?」
「もっとですよ、ジメジメしてて、日差しが強くて、森林はないし、人は多いし…あれは一種の生き地獄だと思いますよ」
「…先の世もいいことばっかじゃないんだね」
ちゃん、と呼んでくれるようになった。これは関係の進歩と言ってもいいのだろうか。
そういえば幸村も下の名前で呼んでくれるようになった。まだ殿は外せないらしいが、こんなにスムーズに呼んでくれるようになるとは思ってもいなかった。なんせ苗字でも女の名前を呼ぶのは恥ずかしがっていたのだから。
今、目の前では信玄と幸村が殴り愛をしている。
勝手にやってろよとは思ったのだが、どうも視界的に暑いし、それなら遠くにいればいいと思っても今度は聴覚的に暑苦しいのだ。どうにかできないものかと佐助に相談しているものの、できたらさっさと直してるよ、と言ってくるので若干諦めかけているのだ
「そういえば城下に出たことあるっけ?」
「いいえ」
それならさ、と小さい子袋を手渡してくれた。中身を確認すると多少の金銭が入っており、これはお使いでも頼んでいるのだろうかと首を傾げた。
「ほら、女の子っていつの時代も好きなんでしょ?えっと…」
しょっぴんぐ!とたどたどしい言葉遣いで横文字を並べた。あまりにも不似合い過ぎて吹き出しそうに放ったのだが、これは有難いと頭をかげてお礼を言った。
「でも、いいんですか?」
「門の所に共を置いてるから連れていきなよ。これは俺様からの駄賃だから好きに使ってきな」
「…あ、有難うございます」
はうれしさと期待で満ち溢れて踊る心を抑えて軽く身支度をし、門の所へ走って行った。