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オンナナレさせてみせますから

第5章 ごたいめーん…


暫くの沈黙。
小山田はこの話を初めて聞くわけではないと思うのだが、なんとも浮かばれない顔をして下を向いてこぶしに力を入れている。
まるで自分の事のように悔み、泣きそうになっている。

「…、辛き思いをさせて申し訳ない」

「?!」

突然何を言い出すかと思えば信玄は謝った。何も悪い事をしていない筈なのに、小山田と同じように悔しそうな顔をしている。
何をそんなに悲しんでいるのか聞こうとすれば信玄は立ち上がり、の頭を優しくわしわしと撫でていた。

「…っ」

その顔は、まるで何日間もあっていない父親のような優しい笑顔だった。
無言ではあるものの、の中で留まっていた恐怖や悲しみ、そして虚しさを、全てを洗い流してくれるような…そんな手つきで。

「信玄様ッ、私、どうしていいかわからなくて」

「儂の国に、なんの罪もないおなごが囚われているとは思わなんだ」

我が子のようにあやしてくれる信玄、それを困ったような微笑みで見つめてくれる小山田。そこで泣き崩れる。
少しだけ、本当に少しだけ現代の家庭に戻れたような気がした。

「小山田よ」

「はっ」

「今宵は宴じゃ、が仲間になったと」

小山田は嬉しそうに返事をすると失礼いたします、と部屋を後にした。
信玄は未だ泣き止まないの背中をたたいて声をかける。

「も聞いたな?宴の席でおぬしの話を聞かせい」

「で、ですが、私の話なんて」

「心配するでない、この武田信玄が付いておるぞ」

そう聞けば、今までに感じたことのない自信に満ち溢れた。
現代で受けていた何よりの応援よりうれしかったし、何故ができるのではないかという錯覚まで起こしてくれたのだ。
恐らく信玄はわかっているのだ。がここの住人ではないことを。それを武田軍を前にして話せと言っている。それは度胸を鍛えるためでもあるし、これから暮らしを共にする武田軍の人々との絆を深めるためでもあるのだ。
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