第19章 恐怖でしかない
翌日の朝、は少し遅く目が覚めたのだった。
「…あれ、朝?」
日は高く、恐らく10時過ぎと言ったところだろう。不思議と腹は空いておらず、暫く布団の中でぼうっとしていた。
ふと、部屋の前に誰かいるのに気が付き、その人に声をかけてみる。
「あの」
「様、お起きになられましたか」
落ち着いたその口調はあまり聞いたことのない声だった。かかわったことがない足軽や家臣なのだろう。
「小山田殿を呼んできます故、少々お待ちください」
「あ、はい」
は布団を畳んだ。人が来るならこれくらいはしておかねば申し訳ないという気持ちからだった。
そういえば、とは昨日の事を思い出す。
政宗はどうなったのか、幸村はどうしているのだろうか、佐助は私を嫌ってしまったのか、と。それら諸々は今からくる小山田に聞けばいいだろうと何度か深呼吸を繰り返す。
「殿、」
「あっどうぞどうぞ」
中へ入ってきた小山田の顔色はとても良いとは言えないほど暗いものだった。
何かあったのかと尋ねたいが、自分が口出ししては良いような問題ではないんだろうと昨日の政宗の話を思い出す。
「…武田が出陣したのです」
「え」
「殿には起きてからつたえよとの幸村殿からの命でして」
幸村ならいいそうな事だった。余計な心配をさせ無い為だろう。
だがそうだとしても何も言わずに行ってしまうとは、と戦国の世に生きる全国の奥方を少しかわいそうに思った。
「ええと、聞いていいのか…誰との、でしょうかね」
「勿論、織田とのです」