第6章 私の過去
「母:ごめんね、今日は、詩織の誕生日なのに、こんなことに、なっちゃって」
母は少し苦しそうに言う。
『帰ってから、帰ってから、誕生日パーティーにしよう?』
私はできる限りの笑顔で言った。暗い気持ちには、なりたくなかったから。
でも、そんな私の言葉も虚しく、母は現実的なことを言う。
「母:そうだね。でも、お母さん、もう、ダメかも。」
『そんなこと言わないで!大丈夫、大丈夫だよ…。きっと大丈夫…!』
半分母に、半分自分に言い聞かせるように言う。
「母:ありがとう。でも、もしも。もしものためにね、今、伝えたいこと、言うね。」
母はもしも、と言うけど、それが本当になってしまう気がして怖い。
「母:お母さんは、いつでも詩織をみてる。たとえどんなものになっても。大好き。大好きよ。」
『私も、お母さんのこと、大好き…っ』
「母:香織にも、大好きよって伝えてね。あなた、子供たちを、よろしくね。」
「父:ああ、ああ、わかった…」
「母:蓮くんも、これからも、詩織と、香織を、よろしくね。」
「蓮:っ、」
蓮はこくこく首を縦に振っている。
「母:詩織、大好き。今まで、ありがとう。」
その言葉を最期に、母の意識は戻らなくなった。
『っ、あ、う、うわぁぁぁん! お母さんっ!!お母さんっ!!』
その日、私は涙が枯れるまで泣いた。
母が亡くなった日から、1ヶ月は、私は憔悴しきっていた。それでもいつもの日常に戻れたのは、誰でもない、蓮のおかげだ。あの日から蓮は毎日私の家に来て、私を慰めてくれていた。思えば、私はあの日から蓮が好きだったんだと思う。
これが、私の”過去”。もう6年も経っているのに、もう大丈夫なはずなのに、雷雨になると、どうしてもあの日のことを思い出してしまう。どんなに頑張っても、体が、記憶があの日のことを覚えている。
私は母の死を、結局まだ乗り越えていないのだ。