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夜明けまで、名前を呼ばないで

第1章  プロローグ ―― 目覚め


外は、まだ薄暗かった。
朝の空気が、火照った肌に冷たくて心地よい。
私は、早足で駅へ向かった。誰もいない道。

電車はまだ始発前で、タクシーを拾うしかなかった。
タクシーの後部座席に身を沈め、窓の外の景色を眺める。
街がゆっくりと目を覚ましていく。
その光景が、やけに遠く感じられた。

(…研二くん)

その名前を頭の中で呼んだ。
私は自分の胸に手を当てた。罪悪感。それが、最初に来た感情だった。悲しみでも、後悔でもなく罪悪感。

「……研二くん以外の人と、こんな成り行きでやるなんて……ホント、サイテー……」

声に出して、そう呟いた。誰も聞いていない。
でも、自分自身に言い聞かせるように。

研二君。私の初恋の人。

幼いころからずっと好きだった。
いつも笑っていて私の名前を呼ぶときだけ少しだけ声が優しくなる人。
その人が死んでから、私はずっと孤独を抱えていた。
誰かを好きになることも、誰かに触れられることも避けてきた。
なのに、昨夜。私は降谷零と。…しかも、相手は兄と研二君の同期。
公安での上司。私が最も敬遠すべき相手。

(どうしよう)

これから、どう降谷さんに顔向けすればいいのか。
仕事の場で、どう接すればいいのか。
頭の中が、ぐるぐると回る。タクシーはまだ走り続けている。
窓の外の空は、少しずつ青みを増していた。

夜が明ける。
でも、私の心の中はまだ夜のままだった。
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