第8章 私からのキス
そして――
「……最後」
脹相がこちらを見る。
「最後?」
「うん」
私は彼の頬に手を添えた。
脹相の喉が小さく動く。
視線が一度だけ私の唇へ落ちた。
それから、すぐに戻ってくる。
「……本当に最後だな?」
「うん」
ゆっくりと顔を近づける。
今度は、迷わない。
唇が触れる。
一瞬。
それだけのつもりだった。
けれど離れようとした瞬間、脹相の手がそっと腰に触れた。
「……待て」
「ん?」
「もう少し」
低い声だった。
そして、もう一度唇が重なる。
優しく、短いキス。
離れたあとも、脹相はすぐには手を離さなかった。
「……やっぱり」
「何?」
「お前からされるのは……駄目だな」
「嫌だった?」
「違う」
即座に否定する。
「嬉しすぎる」
そう言って、脹相は深く息を吐いた。
「だから、止まれなくなりそうになる」
胸元から聞こえる鼓動が、まだ速い。
「……心臓、すごいね」
「言うな」
「ふふ」
「笑うな」
そう言いながら、脹相は私を抱き寄せる。
今度はもう、我慢するつもりがないらしい。
「……今日はお前に負けた」
「勝ち負けなの?」
「俺にとってはそうだ」
少しだけ照れたように、彼が笑う。
「次は……俺からする」
「うん」
その返事を聞いた脹相は、安心したようにもう一度だけ、額へキスをした。
けれどその直後。
「……やはり、もう一度だけ」
そう呟いて、今度は唇へ。
どうやら最後の一回では、終われなかったらしい。