第8章 私からのキス
「どうしたの?」
「……いや」
声が少し低い。
「続けるのか?」
「うん」
頬に手を添える。
右頬にキス。
少し離れて、左頬にも。
いつも彼がしてくれるのと同じように、ゆっくりと。
「……」
脹相は完全に黙っていた。
けれど、耳が赤い。
「脹相、顔赤い」
「……お前がするからだ」
「そんなに?」
「ああ」
短く答える。
それでも、動かない。
言いつけを守っているのか、それとも本当に動けなくなっているのか。
少しだけ笑って、私は彼の髪を撫でた。
「じゃあ、もう少しだけ」
「……ああ」
今度は頬から耳元へ。
そして、ふと目に入った首筋。
いつも脹相が、自分に優しくキスをしてくれる場所。
少し迷ってから、そこへ顔を近づける。
「……?」
脹相の肩がわずかに強張った。
そして――
首筋へ、そっと唇を触れさせる。
「……っ」
今までで一番分かりやすい反応だった。
脹相の呼吸が止まる。
私は顔を上げる。
「大丈夫?」
「……大丈夫だ」
声が明らかにいつもと違う。
「本当に?」
「……ああ」
けれど、こちらを見る目はもう余裕がない。
それが少し可愛くて、もう一度だけ首元へキスをする。
今度はほんの少し長く。
「……」
脹相の手が、ソファの端をぎゅっと握った。
「脹相?」
「……今、話しかけるな」
「どうして?」
「……耐えている」
思わず笑ってしまう。
「何を?」
「お前を抱き寄せるのを」
「別に抱きしめてもいいのに」
「……」
脹相がこちらを見る。
その瞳に、驚くほど真剣な色が浮かんでいた。
「今それを言うのは、反則だ」
「ごめん」
「……謝るくらいなら言うな」
そう言いながらも、彼は動かない。
私はもう一度だけ額にキスをして、それから頬へ。
髪へ。
首筋へ。
最後に、もう一度頬へ。
まるで今まで脹相がくれたキスを、一つずつ返すように。