第1章 告白
「手を繋いでくれたときも」
脹相が、私の手を見る。
「頭を撫でてほしいと言われたときも」
思わず首を傾げる。
「……撫でてほしいなんて言った?」
「言っていなくても、そう思っているように見えた」
「何それ」
少し笑う。
すると脹相も、ほんの少しだけ笑った。
「……すまない」
そして、その笑顔が消える。
「俺にとっては、そういう何気ない時間が全部大切だった」
声が静かになる。
「だから、それ以上を望むことが怖かった」
そして、ようやく私の目を見る。
「お前を失うくらいなら、この気持ちは俺の中だけにしまっておこうと思っていた」
胸が締めつけられる。
「でも……もう、無理だった」
脹相はまっすぐに私を見つめた。
「好きだ」
今度は、迷いのない声だった。
「〇〇が好きだ」
そして、ゆっくり息を吐く。
「恋人として、お前の隣にいたい」
ほんの少し間を置いて。
「……俺を選んでくれるか?」
私はしばらく何も言えなかった。
胸の奥がいっぱいになって、うまく言葉が出てこない。
それでも、ようやく笑って頷いた。
「うん」
脹相の瞳が揺れる。
「私も、脹相が好き」
「……本当に?」
「うん」
「俺でいいのか?」
「脹相がいい」
その瞬間。
脹相は目を閉じ、長く息を吐いた。
張り詰めていたものが、ようやく解けたような表情だった。
「……そうか」
その声が、少し震えていた。
「よかった……」
小さく呟いたあと、脹相はふと私の手を見る。
そして、いつものように手を差し出した。
「……手を繋いでもいいか?」
思わず笑ってしまう。
「それ、今さらじゃない?」
「……そうだな」
脹相も少し照れたように笑った。
付き合う前から、何度も繋いできた手。
人混みではぐれないように。
帰り道を並んで歩きながら。
何となく寂しくなったとき。
それは二人にとって、もう当たり前のことだった。
だから、今さら手を繋ぐこと自体に緊張するなんて思わなかった。
けれど。
脹相の指が私の指にゆっくり絡んだ瞬間。
今までとは違う感覚がした。