第5章 私からのハグ
「……」
抱きしめられた。
思ったより優しい。
けれど、脹相の胸に耳を当てた瞬間――
ドクン。
「……」
ドクン、ドクン。
はっきり聞こえる。
「脹相」
「……なんだ」
「心臓、すごい」
「……聞くな」
「ほんとにバクバクしてる」
「だから言っただろう」
少しだけ腕の力が強くなる。
「お前が悪い」
「私?」
「ああ」
耳元で、少し照れた声がする。
「そんな顔で両手を広げて待たれたら……平静でいられるわけがない」
胸がきゅっとなる。
「……でも、嬉しい?」
「……ああ」
短い返事。
けれど、抱きしめる腕がその答えを何より雄弁に伝えている。
「すごく嬉しい」
そう囁いて、脹相は少しだけ顔を伏せた。
「だから、もう少しだけ……このままでいさせてくれ」
「うん」
返事をすると、脹相は安心したように息を吐いた。
心臓はまだ速い。
きっと、しばらく収まりそうにない。
けれど今度は、その鼓動を隠そうとはしなかった。
むしろ聞かれていることが、どこか嬉しいようだった。
「……脹相」
「なんだ」
「またハグしようね」
「……」
少しの沈黙。
「……次は、もう少し早く心の準備をする」
そう答えたものの。
その声は、少しだけ笑っていた。