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脹相と恋愛〜大人〜

第5章 私からのハグ


「……」

 脹相が一歩近づく。

 止まる。

 また一歩。

 止まる。

「ふふ」

「笑うな」

「だって、すごく慎重だから」

「仕方ないだろう」

 あと少し。

 手を伸ばせば届く。

 けれど、そこでまた心臓が跳ねた。

 ドクン、ドクン、と耳の奥まで響く。

「……うるさい」

「何が?」

「心臓が」

「え?」

「お前のせいで、ずっと騒いでいる」

 そう言うと、こちらまで少し恥ずかしくなる。

「……じゃあ、やめる?」

「それは嫌だ」

 今度も即答。

 脹相は自分でも困ったように眉を寄せる。

「抱きしめたい」

「うん」

「だが……」

 言葉が途切れる。

「今、お前が待っていると思うと、妙に緊張する」

「じゃあ私から行こうか?」

「……それも困る」

「どうして?」

「心の準備が追いつかない」

 思わず笑ってしまった。

 すると脹相はますます気まずそうに目を逸らした。

「……俺は、もっと平然としていられると思っていた」

「私も」

「そうか」

「脹相、いつも落ち着いてるから」

「外ではな」

「外では?」

「ああ」

 脹相は小さく息を吐く。

「お前の前では……そうでもないらしい」

 その言葉に胸が温かくなる。

「じゃあ、ゆっくりでいいよ」

「……ああ」

 今度こそ、脹相が近づいてくる。

 目の前まで来ると、少しだけ躊躇ってから腕を伸ばした。

 まず肩に触れる。

 次に背中へ。

 そして、ゆっくりと身体を引き寄せる。
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