第5章 私からのハグ
「……」
脹相は自分の胸元に手を当てる。
早い。
明らかに早い。
さっきまで普通だったはずなのに。
たった一言。
「ハグしよう」。
それだけで、鼓動がうるさい。
自分から抱きしめることなら、少しずつできるようになってきた。
けれど、真正面から両腕を広げられて、
「おいで」
と言われているような状況は、想像していなかった。
「……そんなに緊張する?」
「する」
即答だった。
「でも、前にハグしたよね?」
「した」
「何回も」
「……した」
「じゃあ大丈夫じゃない?」
「回数の問題ではない」
脹相は真剣な顔で言う。
「お前が今、そうやって待っていることが問題なんだ」
「私が?」
「ああ」
両腕を広げたまま待っている。
その姿が、どうしようもなく愛おしい。
だから余計に困る。
近づきたい。
抱きしめたい。
触れたい。
なのに身体が言うことを聞かない。