第4章 朝のハグ
「……少しだけ」
「何?」
「……抱いてもいいか」
彼女が眠そうな顔のまま頷く。
「うん」
その返事を聞いてから、脹相はゆっくりと腕を伸ばした。
腰ではなく、背中へ。
壊れ物に触れるようにそっと引き寄せる。
ほんの少しだけ。
それでも、肩が触れるだけだったときとは全然違った。
胸元に伝わる体温。
腕の中に収まる感覚。
近くで聞こえる呼吸。
「……」
脹相は黙ったまま、彼女を抱きしめていた。
「落ち着く?」
「……ああ」
答えた声が、少し低い。
彼女の髪に頬を寄せる。
温かい。
安心する。
そして何より――離れたくなくなる。
「……脹相?」
「なんだ」
「少しだけって言ったのに、離してくれないね」
「……」
図星だった。
「……悪い」
そう言いながらも、腕は緩まない。
「本当に、少しだけのつもりだった」
「うん」
「だが……」
言葉を探す。
「こうしていると、離れる理由がなくなる」
彼女が小さく笑う。
その笑い声が胸のすぐ近くで響く。
「じゃあ、もう少しこのままでいよう」
「……いいのか」
「うん」
脹相は目を閉じた。
それだけで、身体の力が抜けていく。
今まで一人で眠ることが当たり前だった。
誰かの体温を感じながら眠る必要なんてないと思っていた。
けれど今は――
腕の中にいる彼女があまりにも自然で、もう一人でいることの方が不自然に思えてしまう。
「……朝になったら、また会いに来てもいいか」
「毎朝来てもいいよ」
「……そうか」
少しだけ安心したように、脹相が彼女を抱く腕に力を込める。
「なら、明日も来る」
「ふふ。早起きできる?」
「お前の顔が見るためなら、起きられる」
そう言って、脹相は彼女の額にそっと顔を寄せた。
「……おやすみ」
「もう朝だよ?」
「なら……もう少しだけ眠ろう」
今度こそ二人とも目を閉じる。
脹相は彼女を抱きしめたまま、なかなか腕を解かなかった。
ほんの少しだけのつもりだったハグは、気づけば彼にとって、朝を迎えるために必要なものになるかもしれない