第16章 脹相〜声をかけられる脹相にモヤモヤ〜
「ねえ」
「ああ」
「さっきの子」
「何だ」
「……何でもない」
結局、聞けない。
脹相はそんなあなたを見て、さらに口元を緩めた。
「そうか」
「……何で笑ってるの?」
「笑っていない」
「笑ってるよ」
「気のせいだ」
「絶対違う」
私は少しだけむっとする。
脹相は視線を前へ戻した。
けれど。
その表情はまだ嬉しそうだった。
「……」
しばらくして。
脹相の手が、私の手に触れる。
「……?」
驚いて見る。
脹相は何でもないような顔をしていた。
「人が多い」
「……うん」
そう言って、手を繋ぐ。
いつもなら自然に受け入れられるのに。
今日は少しだけ意識してしまう。
「……」
脹相の手は温かい。
そのまま歩いていると。
「さっきのことだが」
「……!」
心臓が跳ねた。
「うん」
「俺は何も気にしていない」
「……そっか」
「だから、お前も気にする必要はない」
「……」
胸がまたざわつく。
「別に、気にしてないよ」
「ああ」
脹相が答える。
けれど。
「……ただ」
「うん?」
「少しだけ、嬉しかった」
「……何が?」
脹相はすぐには答えなかった。
繋いだ手を見下ろす。
「お前が、少し不機嫌になっていたから」
「……!」
私は固まる。
「なってない!」
「そうか」
「本当に!」
「ああ」
脹相は穏やかに頷く。
けれど、その顔は明らかに嬉しそうだった。
「……何でそんな嬉しそうなの」
「さあな」
「脹相」
「……」
脹相は少し考えてから。
「大切に思われている気がした」
そう言った。
「……」
何も言えなくなる。
「だから、嬉しかった」
「……」
私は顔が熱くなるのを感じた。
「……知らない」
「そうか」
脹相はそれ以上追及しない。
ただ。
繋いだ手を少しだけ強く握った。
あなたが振りほどかないことを確かめるように。