第6章 脹相〜着替え〜
その日は、朝から少し慌ただしかった。
「脹相ー、私の黒い上着知らない?」
リビングから声をかけると、台所にいた脹相が振り返った。
「黒い上着?」
「うん。昨日着てたやつ」
「お前の部屋に置いてあるのではないか」
「あ、そうかも」
私はそのまま自分の部屋へ向かった。
脹相は特に気にすることもなく、食器を片付けていた。
しばらくして。
「……」
ふと、ソファの背もたれにかかっている上着が目に入った。
「これか」
脹相はそれを手に取る。
そして、廊下へ出た。
「〇〇。」
返事がない。
「これじゃないのか?」
そう言いながら、脹相は何の疑いもなく部屋のドアを開けた。
「……」
次の瞬間。
脹相の動きが完全に止まった。
「……っ」
部屋の中では、私は着替えの途中だった。
ちょうど服を着ようとしているところで、突然開いたドアに驚いてこちらを振り向く。
「…………」
「…………」
二人とも固まった。
時間が止まったようだった。
そして、先に動いたのは脹相だった。
「すまない!」
勢いよくドアを閉める。
「……!」
廊下に立った脹相は、背中をドアに向けたまま動かなかった。
耳まで真っ赤になっている。