第34章 俺たちの子ども
「……」
誰も見ていない。
それなのに、脹相は顔を隠すように俯いた。
俺たちの子供。
そんなものを想像してしまった。
〇〇に似た子だったら。
笑ったとき、あなたと同じように目を細めるのだろうか。
髪は自分に似るのか。
〇〇に似るのか。
いや――
「……どちらでもいい」
脹相は一人で呟いた。
彼女に似ても。
自分に似ても。
きっと、大切にする。
朝になれば三人で食卓を囲んで。
あなたが眠そうにしていたら、自分が子供の面倒を見て。
休日には三人で出かけて。
今日のように迷子にならないよう、しっかり手を繋いで。
「……」
想像が止まらない。
しかも、どんどん具体的になっていく。
『パパ』
もし、小さな声でそう呼ばれたら。
「……っ」
脹相は思わず口元を手で覆った。
顔が熱い。
耳まで熱い。
「……無理だ」
何が無理なのか、自分でも分からない。
ただ、胸が妙に苦しい。
嬉しい。
幸せそうで。
それが怖いくらいに。
「……お前となら」
ぽつり。
「……」
言葉にした瞬間、自分で恥ずかしくなる。
「何を言っているんだ……」
キッチンの隅で、一人で赤くなっている。
もし、あなたがこの姿を見たら。
きっと笑うだろう。
『脹相、何考えてるの?』
そう聞かれたら。
絶対に言えない。
『お前との子供を想像していた』なんて。
恥ずかしすぎる。
「……でも」
脹相は少しだけ笑った。
想像の中のあなたが、子供を抱いている。
そして隣には自分がいる。
その光景が、どうしようもなく幸せに思えた。
「……悪くない」
むしろ。
そんな未来があるなら。
どんなことでも頑張れる気がする。
「脹相ー?」
リビングからあなたの声が聞こえる。
「お茶まだー?」
「……今行く!」
慌てて顔を冷ます。
何事もなかったように湯呑みを二つ持って、リビングへ戻る。