第4章 第四話
しかしながら、鬼道の慎重な考えとは裏腹に彼女は目に見えて鬼道に心を許し始めていた。それが顕著に見えたのは鬼道がに対して記録を取るアドバイスをした翌回の逢瀬でのことだった。
部屋に現れた彼女は小さなノートを胸に抱いていた。そして見よう見まねで自分の練習の記録をつけ始めたことを鬼道に報告した。
さらには練習記録や反省点の綴られたノートの一日目のページを鬼道に差し出しながら、鬼道にノートの付け方が間違っていないかと助言を求めたのだ。驚嘆以上に鬼道は喜びを抱く。
彼女が俺の助言を真剣に聞き入れてくれた。俺の意見を欲してくれた。鬼道の胸は大躍進ともいえる結果に震える。かつては己の言葉を社交辞令と取られたこともあった。ようやく、自分の心が彼女に届き始めたと感じた。
しかも、それだけにとどまらない。彼女の記録の一日目の日付は、鬼道が話をしたその日のものだった。さらにはノートの一番上に、彼女の繊細な文字で『自己を俯瞰的に見る』と綴られていたことも鬼道の胸を高鳴らせた。
あれはあの日に鬼道が語った言葉だった。彼女はそれをわざわざノートに書き留めたのだ。
――――いじらしい奴だ。
彼女の文字を目の当たりにした時、鬼道はだらしなく口元が緩まないよう抑えなくてはいけなかった。
彼女の行いを思い返しては胸が温かくなる。彼女の親愛が目に見えたことは、ますます鬼道のに対する欲求を深めていく。その日のうちに、次の密会の約束を鬼道は取り付けていた。
そして、今日がその約束の日だった。
静けさの漂う部屋の中で鬼道は足を組み替えた。白く味気ない光の元、時計を確認する。いつもならばもう彼女が来ていてもおかしくない時間だ。そう思いながら鬼道は咳ばらいをし、もう一度足を組み替えた。