第15章 雑草
「ねぇ……お父様」
春の中頃。書斎で夕食後の茶を飲んでいると、隣に座るトレーネスがいつもとは違う調子で話しかけた。
「なんだ?」
「普通のお庭はシロツメクサなんか植えない、変だって言われたんですが……本当にそうなんですか?」
今日、息子は来客の侯爵に連れられた娘と一緒に遊んでいたはずだ。その時に言われたのだろう。
「……たしかに植えないことが多い。あれはいわゆる雑草で、放っておくと別の花壇まで広がって他の植物の邪魔になるから生え次第引っこ抜かれる」
「じゃあ、どうしてうちでは植えてるんですか?」
普通の庭では排除されるものをなぜ残しているのか、とトレーネスが訝しむ。
「花が咲く時期……シロツメクサの花壇でお前はよく昼寝をしているだろう」
シロツメクサは春から夏にかけて土を覆うように群生している。青草のカーペットとして、天気のいい日は特に活用されていた。
「気に入っているか?」
「は、はい。とっても」
「それが今も残している理由だ」
言いながら、紅茶を啜る。
「お前にとって快適な庭であればそれでいい」
標準的な植物でなくても景観は維持できる。それに鑑賞するだけの庭より、当人たちにとって実用性のあるものの方がいい。
「じゃ、じゃあ……僕があそこを使うより前は、何のために植えていたんですか?」
物心がつく頃には既にあったはず、とトレーネスが訊く。
その質問にスヴェトザールはティーカップを置き、静かに目を伏せる。
「……私の妻のためだ」
「お母様の?」
「ああ。シロツメクサだけじゃない……庭の草花の半分は妻のために植えたものだ」
好みを聞いては少しずつ入れ替えていった。その度に嬉しそうに笑ってくれていた姿を思い返す。
「お母様はお花が好きだったんですか?」
「植物全般に興味があるようだった。……食べられるかどうかをよく気にしていた」
「あっ、それで……」
心当たりがあるかのようにトレーネスが呟く。
「……昼間、あの子に食べ頃のバナンチクをあげたら「そんなものは平民のオヤツだ」と言われました」
「そうか。まあ、格式を気にする人は食べないかもしれないな」
「おいしいのに……」
しょんぼりと肩を落とす息子のつむじを見つつ、スヴェトザールはほんの少し微笑んだ。